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COLUMN
2017.10.12

観るときはひとりぼっち5[writer]きわみ

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 これまで毎回楽しいイラストを描いてくれていたcicoさんが育児休暇ということで無期限離脱となりました。楽しみにしてくれていた方には残念なお知らせですが、めでたいことなのでご容赦を。それにしても誰かイラスト描いていただけませんか。まったく何の見返りもないですが、編集サイドからクレームがこない限り無条件で採用します。いや、マジで。

 

瀬戸内センチメンタル・コリーダ映画祭

 月例イベントとして定着した感のあるジャスティス映画学園in松山を主催する杉作J太郎氏。南海放送ラジオで毎週土曜21時からのレギュラー番組も始まるということで、ますます生活の拠点を松山に移しつつある雰囲気です。そんな杉作氏の提唱による映画祭が10月21日~11月3日の2週間、多数のゲストを招いての開催となるわけですが、一体全体どうなってしまうのかわからないという状況です。もはやシネマルナティックはジャックされたと思われて結構。何が起こるかは是非その目で確かめていただきたい。

 シネマルナティックのたった一つのスクリーンで2週間で16作品という強行スケジュール。タイトルを列挙していたらキリがないので書きません。詳しく知りたい方はルナティックのホームページでも見てください。果たしてすべての作品を観られる方がいるのかどうか。それに付け加えて上映される短編に至っては、いつ上映されるのかわからないという予告サプライズ状態です。どれもなかなか観る機会のない独特なラインナップなのは間違いなく、モノによってはこの先の人生で観る機会が二度とないかもしれません。

 内藤誠、八名信夫、飯島洋一、伊藤智生、島田角栄、北村早樹子(以上敬称略)という作品ゆかりのゲストを迎えての楽しいトークなどイベント多数。これらの名前にピンと来ない方もいるかもしれません。そんな方々にこそ新たな価値観を提示してもらえるチャンス。きっと実りのある時間を過ごせるはずです。当たり前ですが世の中まだまだ知らないことがたくさんあるのです。インターネットがあればなんでも知ることができるなんてのは大間違いだと知ってください。

 よくわかりませんが、きっとそういう映画祭になると思います。

 でも映画祭作品で個人的に一番楽しみなのは、杉作氏と縁もゆかりもないサム・ペキンパー監督による映画史上の傑作『戦争のはらわた』をひさびさにスクリーンで観られることです。親を質に入れてでも観ることをオススメします。

 

『新感染 ファイナル・エクスプレス』

 大好評ということで、10月14日~10月20日に再映となりました。

 内容に関してはまだ新しい作品なのでネタバレのことがありますから詳しく書けませんが、あるシーンで『アルマゲドン』にオマージュを捧げていたことにびっくりしました。『アルマゲドン』といえば、情報誌などの街角スナップショット的なコーナーでの好きな映画は?の回答に挙げられまくっていたわけです(最近はさすがに減ってきていますが)。なにしろオシャレ女性達にも支持された大人気作品ですから、相当な数の安易なパクリ作品はあったとは思うんですけれど、とうとうオマージュが出てきました。すごい時代になったなと痛感するよりありません。

 それにしても今やすっかりゾンビは走るものになりました。景気よく襲い掛かってくるほうが派手になるので飛んだり跳ねたりするのはわかりますが、個人的にはあまりゾンビ映画とは言い難いところです。なんというか、哀愁が無いからかもしれませんね。それに、あれだけ威勢が良いともはや人間と大差ないんじゃないかと思うのですよね。もちろん走るゾンビ映画が嫌いなわけではなくて、むしろ大好きです。

 大勢に追いかけられるといえば、『キートンのセブン・チャンス』という映画があります。喜劇王バスター・キートンの傑作のひとつです。キートンが莫大な遺産を相続するにあたって期限までに結婚するのが条件なのですが、どうにも良い人に出会えない。というわけで大々的に募集してみたところ、遺産目当ての花嫁立候補女たち、町中の女という女が大挙してキートンめがけて突進してくることに。全力で逃げるキートンを集団が全力で追いかける(しかも全員女)という状況は、喜劇であることを忘れさせるような凄みがあります。

 大勢に襲われるといえば、『妻たちの性体験 夫の眼の前で、今…』という小沼勝監督の映画を思い出します。小沼勝監督は谷ナオミ主演作品などの日活ロマンポルノをたくさん撮っています。後に杉本彩主演でリメイクされた『花と蛇』などは特に有名でしょうかね。『妻たちの性体験』もポルノ作品ゆえ内容についてあまり語りにくいんですが、飢えた大学ラグビー部員が唐突に窓から殺到してくるというもの凄いシーンがありまして。居間の窓からガタイの良いラガーシャツ軍団が噴出してくる様は、その後『ジュマンジ』に多大な影響を与えたかもしれません。まあそんなわけ絶対ありませんが。

 何が言いたかったというと、大勢から猛烈に襲い掛かられる恐怖は人間だろうがゾンビだろうが同じようなものということなのでした。

 というわけで『新感染』、ゾンビ怖いなぁ血みどろのホラー映画怖いなぁと敬遠する方なんかもいらっしゃると思うんですけれど、どうぞ安心してください、どちらかというとハリウッドの伝統的なパニック映画を下敷きにしたような楽しい娯楽作品という趣ですから、是非ご覧になってみてください。

 

『20センチュリー・ウーマン』

 シネマルナティックでの『20センチュリー・ウーマン』の上映が終わってしまったわけです。ラストで「As Time Goes By」が流れました。「時の過ぎゆくまま」にという日本語訳で知られていますが、沢田研二が歌う同名の曲と間違われないように。

 ジュリーじゃないならどんな曲だったっけと思う人かもしれませんが、ワーナー・ブラザーズ映画の冒頭でロゴが出る時に流れる曲だったりもするので、ある程度映画を観る人だったらそれなりに耳にしているはずです。ピアノソロから始まって、最終的にはオーケストラの重厚な音楽になるごく短いやつです。聞き覚えが無いという奴はモグリでしょう。

 今更言うまでもなく名作『カサブランカ』のメイン・テーマで、もちろんワーナーの映画です。劇中でイングリッド・バーグマンがピアニストに「あれを弾いて、サム。『時の過ぎゆくままに』を」とお願いするシーンがあるわけですから、ワーナーロゴのイントロがピアノのソロから始まるのはきっと当たり前のことなんでしょう。

 果たしてどれくらいたくさんの映画でこの曲が使われたのかは知りませんが、個人的に思い入れがあるのは、ラルフ・バクシ監督の『アメリカン・ポップ』。ラルフ・バクシはアメリカのアニメーション監督です。ピーター・ジャクソンの『ロード・オブ・ザ・リング』に先駆けて『指輪物語』のアニメーションを作ったりしています。さすがにあの長い作品の全編を作ることはできませんでしたが。

 この作品は20世紀のアメリカの歴史を、その時代の音楽とともに描いていきます。歌は世につれ世は歌につれとはよく言ったもので、それぞれの時代にはそれぞれの音楽がつきものなんですね。というわけで実際に当時のヒット曲をたくさん使用しています。だがしかしそれが仇となって、楽曲関係の権利問題が大変らしく日本ではソフト化されていないようです。叶わぬものとわかっていますが、個人的にはもう一度スクリーンで観たいと心から願っている作品のひとつです。

 年代記のような作品なのでオムニバスのような構成になっていますが、エピソードのひとつとして第二次大戦に徴兵されたピアニストの話が忘れがたい。戦禍の瓦礫の街でピアノを見つけるや、躊躇無く演奏を始めます。安全の確認されていない戦場でピアノを奏でるなんてのは敵に自分の居場所を知らせるようなもの。自殺行為なのは言うまでもないことですが、きっと彼にとってピアノがあったら演奏するなんてのは呼吸するように当たり前なことなのでしょう。戦場ですり減らした人間的な何かを取り戻すために必要な行動だったのかも知れません。その時に弾く曲が「時の過ぎゆくままに」だったのでした。

 背後の物陰からマシンガンを構えて立ち上がる者がありました。もちろんドイツ兵です。気配を悟ったピアニストは振り返り演奏を止めますが、しかしすぐさま違う曲を弾き始めます。「リリー・マルレーン」です。

 「リリー・マルレーン」はドイツ軍人にとって特別なものです。例えば日本人だったら「ふるさと」や「赤とんぼ」のような曲が異国の地で流れてきたら耳を奪われてしまうと思うのですが、おそらくそういう感じだと思います。うっとりと聞き惚れるドイツ兵。観ている我々はこのまま何事も起こらずにドイツ兵が去っていくような美談を期待するでしょう。しかしピアニストは何を思ったかその演奏をピタッと止めてしまいます。その瞬間、「danke!」(ドイツ語でありがとう!)の感謝の言葉とともにドイツ兵のマシンガンの餌食になり果てるのでした。

戦争という特殊な状況では謝意と射殺が同居することもあるんですね。名シーンです。

 

きわみ

シネマルナティック周辺人

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