FLOWER & GREEN花と緑 『楽園を巡る旅』前編 - マチボン

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2023.06.30

FLOWER & GREEN花と緑 『楽園を巡る旅』前編[writer]ハタノエリ

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FLOWER & GREEN花と緑 『楽園を巡る旅』前編

はじまりは、かつて松前町に存在した愛媛亜熱帯植物園。一本のヤシの木に魅せられ、私財を投じて植物園を開園するまでに至った男がいたらしい。エキゾチックでどこか甘美なネーミングの植物園が愛媛に存在したなんて…。数年前にすべて伐採されたそうで、一度でいいから行ってみたかった。…いや待てよ。他にもこの街には楽園が残っているのでは? 我々がまだ知らない、楽園を記録として残さねば! それが今回、僕たちが旅に出た理由です。昭和感(開園は平成ですが)が色濃く残る懐かしい植物園から、九龍城を思わせる菖蒲園、石鎚山系の山奥に現れた幻の湿原に、果てはポップアートを思わせるフラワーショップまで。幻想の花と緑の楽園を巡る旅に、ボン ヴォヤージュ!

 

人がつくりあげたもの、と 自然がつくりあげたもの。

 

 初夏。幻の楽園。湿気を帯びたふたつの言葉を手がかりに、最初に向かったのは大洲市の「新谷(にいや)花菖蒲園」。2年前に閉園した名園は、肱川水系の矢落(やおち)川沿いにある。建物と植物が溶けあった緑の“城”に近づくと、雑草にまぎれて少しハナショウブが残っていた。

 

 

ことし92歳になる元園主の八島信治良(しんじろう)さんは今から50年以上前に苗を譲り受け、ハナショウブのおもしろさ、奥深さにのめりこんだ。自宅に無数のデッキをつけ、花を並べて一般開放し、最盛期には約1万本の花群で多くの人を喜ばせた。花に向けられたお客さんの言葉を、自分のことのように喜んでいた八島さん。2018年の豪雨被害と高齢を理由に、園を閉じる道を選んだのは無念だっただろう。けれどもこれまで品種改良した中の4品種が日本花菖蒲協会に登録されており、生涯をかけた情熱と功績は残りつづける。

 

 

 見上げれば、強気の日差し。夏らしい楽園を求めて西予市三瓶にやってきた。須崎海岸に向かう海沿いの道から山を登る。すると、南国風情の大きな葉がわさわさと茂る畑が現れた。ここは愛媛熱帯果樹研究普及会の髙野浩幸さんが営むバナナ園。

 

 

石垣島で南国フルーツをひとかじりし、本当のおいしさを知った髙野さんは、12年前から三瓶の山でパパイヤ、パッションフルーツなど15種類ほどの熱帯果樹を育てている。「熱帯植物は切った先から伸びるのがわかるほど成長が早い」と髙野さん。神秘的で生命力あふれる熱帯果樹の魅力を広めたいと、いまは苗の販売に力を注いでいるそうだ。

 

 

髙野さんにすすめられ、もぎたてを食べてみた。ライチに少し似た「ジャボチカバ」は、味覚の引き出しをひとつ、増やしてくれた。

 

 

 

 好きなものを知ってほしい、見てほしい。菖蒲園も南国フルーツの農園もピュアな想いが生んだ楽園だった。そんなことを考えながら、次は圧倒的な自然の楽園をめざすことに決めた。

 

神秘的な姿から「神の庭」とも呼ばれる「笹倉(さぞう)湿原」へ。久万高原町の森の中、いくつもの沢を渡る。歩き始めて1時間半、森の暗がりから、ふっと視界が明るくなった。太陽のスポットライトを浴びた濃いグリーンの“じゅうたん”。その正体は、一面の苔。

 

 

標高1400メートルにある高層の笹倉湿原は、数千年もの時をかけてつくりだされた。近年少しずつ周りを囲う笹が増え、苔が縮小していると聞く。「神の庭」もいつの日か、幻の楽園になってしまうのだろうか。

 

 

旅は、後半に続く。

 

 

今回、巡ったスポット

新谷花菖蒲園
閉園した後は、園主の息子さんがハナショウブの販売部門を受け継ぎ、「新谷菖蒲園 菖蒲苗栽培園」として販売用を一部公開している。
大洲市新谷町甲5 閉業

 

愛媛熱帯果樹研究普及会
YouTubeで果樹の成長や魅力を発信。その効果もあって県内外から、三瓶の園地まで見学者が訪れる。見学希望者は事前に電話連絡を。
西予市宇和町伊延西857-1  ☎:080-6385-4586  YouTube/ ひろ兄のお笑いアボカドチャンネル Instagram/@hi_ro5374

 

笹倉湿原
雨の日や雨後だと、苔のうつくしさが際立つ。トレッキングに向かう服装で臨んで。森の中は、赤のマーカーを頼りに目的地をめざそう。
上浮穴郡久万高原町若山